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東京地方裁判所 平成4年(行ウ)74号 判決

東京都足立区扇一丁目四四番一六号

原告

野沢辰雄

右訴訟代理人弁護士

黒岩哲彦

吉村清人

青柳孝夫

東京都足立区栗原三丁目一〇番一六号

被告

西新井税務署長 遊佐英夫

右指定代理人

新堀敏彦

田部井敏雄

須田靖

大原満

井上良太

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し平成三年三月一二日付けでした

(一) 昭和六二年分所得税の更正のうち総所得金額九三万七六〇三円、納付すべき税額二〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

(二) 昭和六三年分所得税の更正のうち総所得金額一五三万九〇五七円、納付すべき税額五万九一〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、肩書住所地において、水道配管工事業を営む個人事業者であるが、昭和六二年分及び昭和六三年分(以下「係争各年分」という。)の所得税につき、それぞれ総所得金額を別表1の〈1〉欄記載のとおりとし、納付すべき税額を同表の〈2〉欄記載のとおりとして、いずれも法定の期限内に青色申告書によらないで確定申告をした。

被告は、平成三年三月一二日、原告に対し、係争各年分の所得税につき、それぞれ総所得金額を同表の〈3〉欄記載のとおりとし、納付すべき税額を同表の〈4〉欄記載のとおりとする更正(以下「本件各更正」という。)をするとともに、同表の〈5〉欄記載のとおりの額の過少申告加算税を賦課する決定(以下「本件各決定」という。)をした(以下、本件各更正及び本件各決定をあわせて「本件各処分」という。)。

原告は、平成三年四月二四日、被告に対し本件各処分につき異議申立てをしたが、同年六月二七日付けで棄却されたため、同年七月一五日、国税不服審判所長に対し審査請求したところ、これも平成四年一月二四日付けで棄却された。

2  しかしながら、本件各更正には原告の所得金額を過大に認定した違法があり、本件各更正を前提とする本件各決定も違法であるから、原告は本件各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認めるが、同2は争う。

三  抗弁

本件各更正は、原告の係争各年分の事業所得の金額を推計して行われたものであるところ、以下に述べるとおり、本件においては、推計による課税が必要であり、推計の方法も合理的であって、本件各処分は適法である。

1  推計の必要性

(一) 原告の係争各年分の確定申告書には、事業所得に係る収入金額の記載がなかったうえに収支計算書も添付されていなかったため、その所得金額の算出経過が不明であったこと、原告に対する所得税の調査が長期間行われていなかったことから、被告は、原告の係争各年分の所得税につき調査の必要があると認め、被告所部係官の吉田昌一(以下「吉田係官」という。)にその調査を命じた。

(二) 吉田係官は、平成二年九月一七日午後二時五〇分ころ、原告の事業所に臨場し、原告に対し、身分証明書及び質問検査章を提示して所得税の調査のため臨場した旨を告げたうえ、帳簿書類を提示し調査に協力するよう求めたところ、原告が具体的な調査理由を開示することを求めたので、その後約三〇分間にわたり、調査の目的が原告の所得内容の確認であることを繰り返し説明し、帳簿書類を提示するよう要請した。しかしながら、原告は、そのような調査理由の説明では納得できないとして、より具体的な調査理由を開示することを求めるのみで、帳簿書類の提示の要請に応じなかったので、同係官は、当日の調査を断念し、同月二七日午後二時に再度臨場することについて原告の了解を得て、その場を辞去した。

(三) 吉田係官は、平成二年九月二七日午後二時ころ原告の事業所に臨場したが、そこには原告以外に七名の者(原告の説明によると、足立西民主商工会の事務局員及び会員とのことであった。)が待機していたので、同係官は原告に対し、税務職員には法律により守秘義務が課せられており、本件調査に関係のない第三者を立ち会わせることはできない旨を説明し、右七名の者を退出させて帳簿書類を提示するよう求めた。しかしながら、原告は、右七名を調査に立ち会わせること及び具体的な調査理由の開示を求め、同係官がその後約一時間にわたり右七名を退出させて帳簿書類を提示するよう繰り返し要請したにもかかわらず、これに全く応じようとしなかった。このため、同係官は、原告には調査に応じる意思がなく、被告において独自に原告の所得金額を調査しなければならないものと判断し、原告にその旨を告げて、その場を辞去した。

(四) 右のとおり、原告は、吉田係官の再三にわたる要請にもかかわらず、帳簿書類等係争各年分の所得金額の算出根拠を明らかにする資料の提示をせず、調査に応じようとしなかったものであって、このような状況においては、原告の係争各年分の所得金額を実額で把握することが不可能であったため、被告は、やむなく被告の調査によって把握した事実を基礎として推計により原告の所得金額を算出し、本件各更正を行ったものであるから、右推計にはその必要性があつたといわなければならない。

2  推計の合理性

(一) 売上原価(仕入材料の価額)

原告は、「協栄工業」の名称を用いて株式会社不二商工(以下「不二商工」という。)から水道配管工事に必要な工具類及び材料を仕入れていたところ、係争各年分における材料の仕入価額は、別表1の〈8〉欄記載のとおり、昭和六二年分が五七三万一九二七円、昭和六三年分が五一七万二八六五円である。

(二) 比準売上原価率及び比準経費率の算出方法

(1) 被告は、右(一)の売上原価(仕入材料の価額)を基礎として、原告と事業規模が類似する水道衛生工事(水道配管工事)業者(以下「比準同業者」という。)の係争各年分の売上金額に対する売上原価の割合(以下「売上原価率」という。)の平均値(以下「比準売上原価率」という。)及び売上原価を除くその余の必要経費(以下「その他の経費」という。)が売上金額に占める割合(以下「経費率」という。)の平均値(以下「比準経費率」という。)を用いて推計を行った(以下「本件推計」という。)。

(2) 被告が本件推計に用いた比準同業者は、西新井税務署管内に住所及び事業所を有して水道衛生工事(水道配管工事)業を営む個人事業者であって、次の条件を充たす者である。

ア 係争各年分において年を通じて水道衛生工事(水道配管工事)業を営んでいる者

イ 係争各年分について青色申告の承認を受けている者

ウ 係争各年分の売上原価の額が原告のそれの二分の一以上二倍以下の範囲内である者

エ 災害等により経営状態が異常であると認められる者以外の者

オ 課税処分に対する不服申立て又は訴訟が係属中でない者

(3) 右の条件に従って比準同業者として抽出された者は、昭和六二年分について一二名、昭和六三年分について一一名であり、それら比準同業者各人の売上金額、売上原価、その他の経費(所得税青色申告決算書中の「経費」欄の合計額に青色事業専従者給与の額を合計した額)、売上原価率、経費率は別表2及び3のとおりであったから、係争各年分の比準売上原価率は別表1の〈9〉欄に、比準経費率は同表の〈11〉欄に各記載のとおりとなる。

(三) 推計による所得金額

右(一)の売上原価(仕入材料の価額)を右(二)の比準売上原価率で除した原告の係争各年分の収入金額は別表1の〈7〉欄記載のとおりであり、その収入金額に右(二)の比準経費率を乗じた原告の係争各年分のその他の経費は同表の〈10〉欄に記載のとおりであるから、その収入金額から、売上原価及びその他の経費を差し引いて算出された原告の係争各年分の事業所得の金額は、同表の〈6〉欄に記載のとおりとなる。

3  本件各更正の適法性

本件各更正による原告の係争各年分の所得金額は、いずれも本件推計による所得金額の範囲内であるから、本件各更正は原告の所得金額を過大に認定したものではなく、適法である。

4  本件各決定の適法性

本件各決定は、本件各更正により新たに納付すべき所得税額を基礎として、国税通則法六五条の規定に従い適法に算出した過少申告加算税を賦課したものであるから、適法である。

四  抗弁に対する認否及び原告の主張

(認否)

1(一) 抗弁1(一)の事実は知らない。

(二) 同1(二)の事実のうち、吉田係官が平成二年九月一七日午後二時五〇分ころ原告の事業所に臨場したこと、原告と同係官が次回の臨場日時を同月二七日午後二時とする旨合意したことは認め、その余は否認する。

原告は、右調査の際、吉田係官に対し、手元にあつた資料を提示したうえ、調査理由を質問したが、吉田係官は、これに答えず資料も見ずに帰ったものである。

(三) 同1(三)の事実のうち、吉田係官が平成二年九月二七日午後二時ころ原告の事業所に臨場し、その際、原告に対し立会人を退出させるよう求めたこと、吉田係官が税務署独自に調査する旨を告げてその場を辞したことは認め、その余は否認する。

原告は、右調査の際、ファイルに綴じて区分けした昭和六二年分、昭和六三年分、平成元年分の収支計算書、経費に関する請求書、領収書、出金伝票、発行した請求書の控えを用意して吉田係官の目の前にこれらの資料を提示し、再三にわたりこれらの資料を見て所得の確認をするように求めたが、同係官は、立会人がいることを理由に、右資料を見ることなく一方的に調査を中止して帰ってしまったものである。

(四) 同1(四)は争う。

原告は、吉田係官の求めに応じて、収支計算書、請求書、領収書等の資料を提示し、調査を拒否したことはなかったのであるから、本件においては原告の所得金額を推計する必要はなかったのである。

しかも、納税者の事業所に臨場し、質問検査権を行使して所得税の調査を行うためには、事前に調査の日時を通知し、調査の合理的必要性の理由を開示することが必要であり、また、調査に際しては、納税者に立会人の立会を求める権利があるというべきであるのに、吉田係官は、何の予告もなく臨場調査を行ったうえ、調査の合理的必要性の理由を開示せず、立会人の立会を許そうともしなかったものであるから、同係官による調査は、質問検査権の行使の適法要件を欠き、納税者の権利を侵害する違法な調査であるというべきである。したがって、かかる違法な調査に基づく本件各処分は違法である。

2(一) 抗弁2(一)の事実は認めるが、係争各年分の仕入材料の価額がそのまま売上原価になるとの点は争う。

原告の係争各年分の売上原価は、右仕入材料の価額に期首たな卸資産の価額を加え、期末たな卸資産の価額を差し引いて算出した金額であり、後記のとおり、昭和六二年分が五七一万四八二九円、昭和六三年分が三九六万三六八三円である(別表4の〈2〉欄記載の金額)。

(二) 同2(二)、(三)は争う。

(1) 被告の本件各更正は、反面調査による売上金額を基礎とし、これに比準同業者の平均特前所得率(青色申告者にのみ認められる特典を除いて計算した所得金額の総収入金額に占める割合の平均値)を乗じて推計した所得金額を根拠として行われたものであり、その基礎となる基本的資料に変更がないのに、本訴に至って本件各更正時と異なる推計方法の主張をすることは許されない。

(2) 本件推計の基礎となった売上原価のうち「協栄工業」宛ての請求書及び領収書に係る分については、裁決において、原告だけに係る材料費かどうか疑義があるとの判断がされていたのであるから、本件推計は、その基礎となる事実の正確性に疑いがあり、合理性を欠くものである。

(3) 水道配管工事業においては雇人の有無が所得率の高低に大きく影響するところ、係争各年分当時、原告には雇人がいなかったのであるから、合理的な推計を行うためには雇人のいない同業者を比準同業者とすべきであって、本件のように雇人の不存在を条件としないで抽出された比準同業者は、原告と業態が類似している者であるとはいえず、本件推計には合理性がない。

(原告の主張-所得の実額)

1 事業所得の金額

原告が受注した水道配管工事に係る係争各年分の売上金額(別表4の〈1〉欄に記載のとおり)から、係争各年分の売上原価(同表の〈2〉欄に記載のとおり)及びその他の経費(同表の〈3〉欄に記載のとおり)を控除した係争各年分の事業所得の金額は、昭和六二年分が一〇万六四六五円、昭和六三年分が一五〇万三三七三円であるところ、それらの内訳は、次の(一)ないし(三)のとおりである。

(一) 売上金額

原告は、有限会社池内工務店、斉藤工務店その他の者から水道配管工事を受注していたが、工事代金請求時に収入すべき金額となるそれら受注工事の売上金額は、昭和六二年分が別表5に(そのうち雑工事の内訳は別表5の2に)、昭和六三年分が別表6に(そのうち雑工事の内訳は別表6の2に)、それぞれ記載のとおりであり、係争各年分の売上金額は、昭和六二年分が七五二万八六五四円、昭和六三年分が六三六万〇八九六円である。

(二) 売上原価

原告の係争各年分の売上原価は、期首たな卸資産の価額に、期中の仕入材料の価額を加え、期末たな卸資産の価額を差し引いて算出した金額(別表4の〈2〉欄記載の金額)であり、昭和六二年分が五七一万四八二九円、昭和六三年分が三九六万三六八三円となるところ、その算出根拠は、以下のとおりである。

(1) 昭和六二年分

ア 期首たな卸資産の価額 五万〇〇〇〇円

昭和六二年期首たな卸資産の価額は、原告が常時在庫させていた材料の価額(以下「常時在庫額」という。)であり、その内訳は別表7に記載のとおりである。

イ 期中仕入価額 五七三万一九二七円

不二商工から仕入れた材料の価額であり、その内訳は別表8に記載のとおりである。

ウ 期末たな卸資産の価額 六万七〇九八円

昭和六二年一二月二一日から同月三一日までの間に代金支払請求があった材料費等二万五〇九八円のうち工具代を除く一万七〇九八円、常時在庫額五万円を加えた六万七〇九八円である。

(2) 昭和六三年分

ア 期首たな卸資産の価額 六万七〇九八円

昭和六二年分の期末たな卸資産の価額である。

イ 期中仕入価額 五一七万二八六五円

不二商工から仕入れた材料の価額であり、その内訳は別表9に記載のとおりである。

ウ 期末たな卸資産の価額 一二七万六二八〇円

昭和六三年一一月二一日から一二月三一日までの間に代金支払請求があつた一二四万〇五七〇円のうち修理代(八一六〇円)、工具代(六二三〇円)を除く一二二万六二八〇円に、常時在庫額五万円を加えた一二七万六二八〇円である。

(三) その他の経費

原告の水道配管工事業に係るその他の経費の内訳は、昭和六二年分が貸倒金一一七万五五〇〇円を含め別表10に、昭和六三年分が別表11にそれぞれ記載のとおりである。

2 給与所得の金額

(一) 昭和六二年分

原告の昭和六二年分の給与所得の金額は、久保設備工業から営業行動費及び常用工賃として支給された四〇万円、寺林配管工業所から常用工賃として支給された九六万三〇〇〇円、有限会社池内工務店から常用工賃として支給された三万円の合計一三九万三〇〇〇円から、給与所得控除額を差し引いた八二万三〇〇〇円である。

(二) 昭和六三年分

原告の昭和六三年分の給与所得の金額は、久保設備工業から営業行動費及び常用工賃として支給された四〇万円、寺林配管工業所から常用工賃として支給された一七万一五〇〇円、有限会社モーターズから手間代として支給された一万六五〇〇円、風間延夫から手間代として支給された一万二〇〇〇円の合計六〇万円から、給与所得控除額を差し引いた三万円である。

3 総所得金額

右1の事業所得の金額(別表4の〈A〉の金額)と右2の給与所得の金額(同表の〈B〉の金額)の合計額が、原告の係争各年分の所得の実額であり、昭和六二年分が九二万九四六五円、昭和六三年分が一五三万三三七三円である。

五  原告の主張に対する被告の反論

1  売上金額について

納税者は、推計による所得金額が所得の実額を上回る違法がある旨を主張立証する場合には、所得の実額を算出する前提として当該年分の総収入金額を主張立証しなければならないものと解されるところ、本件では、〈1〉 売掛帳、売上帳、現金出納帳等の会計帳簿、工事見積書、工事日程表等の資料の提出がないこと、〈2〉売上金額を裏付ける資料として提出された請求書控えには、原告主張の売上の一部に対応するものが欠けているのに、通し番号が手書きで書かれているなど、不自然な点が多いこと、〈3〉 原告主張の売上金額・売上原価に基づいて売上原価率を算定すると、同業者の売上原価率に比べ極めて高率であることなどからして、原告の主張する売上金額がその事業に係る総収入金額であると認めることはできない。なお、原告が係争各年分の給与所得に係る収入であると主張するものは、いずれも工事の施工に伴う手間代や同業者への工事仲介の手数料であって、雇用契約又はこれに類する原因により原告がこれらの取引先の指揮命令に服して行った労務の対価ではないから、給与所得に係る収入ではなく事業所得に係る収入である。

2  売上原価について

原告は、期末たな卸資産の価額の算定につき、昭和六一年期末は常時在庫額の五万円を計上しながら、昭和六二年期末は常時在庫額の五万円に同年一二月二一日以降の仕入れに係る材料費を加え、昭和六三年期末は同年一一月二一日以降の仕入れに係る材料費を加えるなど、年によって異なる計算方法を採用しており、また、昭和六三年期末たな卸資産の価額に算入された同年一一月二一日以降の仕入れに係る材料の中には、昭和六三年中に工事代金請求がされた工事の材料が含まれている。このように、原告主張の期末たな卸資産の価額は極めて不正確なものであるから、その主張する売上原価に基づいて事業所得の金額を算定することはできない。

3  貸倒金について

原告は、昭和六二年分の貸倒金一一七万五五〇〇円を主張しているが、貸倒れの時期、売掛代金の回収状況、貸倒金処理の状況などが明らかでなく、これを明らかにするために必要な売掛債権に係る帳簿も提出されていないから、原告主張の金額を昭和六二年分に係る貸倒金と認めることはできない。

第三証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

第二本件各更正の適法性について

一  推計の必要性について

1  まず、被告において推計による更正を行う必要があったかどうかについて検討するに、いずれも成立に争いのない甲第一号証、第四四、四五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一八、一九号証、証人吉田昌一の証言、原告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、昭和五一年五月以降、常雇いの雇人を置かずに個人で水道配管工事業を営んでいたものであり、その主な業務内容は工務店などの建設業者から上下水道設備工事を請け負って施工するというものであるが、同業者に工事を仲介して手数料を得たり、同業者の請け負った工事に必要な施工作業をして作業代金を得るということもあった。

(二) 原告が提出した係争各年分の所得税の確定申告書には、所得金額の欄に事業所得の金額、給与収入の金額、給与所得の金額が記載されるにとどまり、事業所得に係る収入金額の記載がなく、必要経費の内訳を明らかにする収支内訳書も添付されていなかった。被告は、右のような申告の状況や原告の所得税について長期間調査がなされていなかったことから、その所得税につき調査を行う必要があると判断し、被告所属の税務職員である吉田係官に、原告の係争各年分及び平成元年分の所得税の調査を命じた。

(三) 吉田係官は、平成二年九月一七日午後二時五〇分ころ、原告の事業所に臨場し(この点は当事者間に争いがない。)、原告に身分証明書及び質問検査章を提示し、昭和六二年分ないし平成元年分の所得税の調査のため臨場した旨を告げて、原告が申告所得金額を算定する基礎としてた帳簿書類等の資料をみせてもらいたい旨申し出たところ、原告が具体的な調査理由を述べるように求めたため、調査の目的は原告が申告した所得金額の確認であること、原告の確定申告書には収入金額欄の記載がなく、収支内訳書も添付されていなかったため経費の内容も分からないこと等を説明し、調査への協力を求めた。しかし、原告は、右説明に納得せず、税務職員には申告のどこが間違っているかを示して調査理由を具体的に説明する義務があるなどと述べ、帳簿書類を提示しようとしなかった。そこで、吉田係官は、当日の調査を断念し、次回の調査日時につき原告の都合を聞き、同月二七日午後二時に再度調査に訪れることにつき原告の了解を得て(次回の臨場日時を右のとおりとする旨合意されたことは当事者間に争いがない。)、午後三時半ころ、その場を辞去した。

(四) 吉田係官は、平成二年九月二七日午後二時ころ原告の事業所を訪れ(この点は当事者間に争いがない。)、原告が自宅の居間と兼用にしている一階の部屋に通されたが、そこには、原告の他に、原告が調査への立会を依頼した足立西民主商工会の関係者ら七名(以下「立会人」という。)が待っており、同係官は、部屋の中央にあるテーブルを挟んで原告と向かい合わせに座った。テープルの上には書類のようなものが入った箱が置かれており、原告は、それが係争各年分の帳簿書類である旨説明していたが、吉田係官は、税務職員には法律上守秘義務が課せられているため調査に関係のない第三者を立ち会わせることはできないと述べ、原告に対し、立会人を退出させて、帳簿書類を提示するよう求めた(吉田係官が原告に対し立会人を退出させるよう求めたことは当事者間に争いがない。)。しかし、原告は、立会人の立会は納税者の権利を守る団結権の行使であると述べ、前回の調査時と同様、具体的な調査理由を説明するよう求める趣旨の発言を繰り返すばかりで、同係官の要請に全く応じる姿勢を見せようとせず、立会人も原告と同様の発言を行っていた。

吉田係官は、約一時間にわたり、原告に対し、立会人を退席させて帳簿書類を見せてくれるよう繰り返し要請し、立会人を退席させないのであれば帳簿書類を一時貸与して欲しい旨要請したが、原告はそのいずれの要請にも応じることなく、調査に協力しようとしなかったため、結局、同係官は、テーブルの上の書類のようなものの内容についても一切確認することができなかった。そして、吉田係官は、原告の態度が非常に頑なであり、これ以上説得を続けても原告の姿勢は変わらないと考えられたことから、もはや原告の協力を得てその所得金額の調査を行うことは困難であると判断し、原告に対し、税務署独自の調査を行う旨を述べたうえ、調査に協力する場合には連絡をするように告げ、同日午後三時過ぎに原告の事業所を辞した(吉田係官が税務署独自に調査する旨を告げてその場を辞したことは当事者間に争いがない。)。

(五) 原告は、平成三年一月中旬、西新井税務署を訪れ、吉田係官が行っている原告の所得税の調査活動に抗議し、徹底的に税務署と争うとの趣旨の発言をしたほか、同年三月初旬、同係官から修正申告の意向があるかないかを尋ねる内容の電話を受けた際にも、違法な調査を受けたのだから修正申告にも応じないし、徹底的に争う旨の返答をした。

(六) 原告は、本件各処分に対する国税不服審判所における審査の際、本件各更正の金額と大幅に異なる所得の実額の主張を行っていたにもかかわらず、収支計算書、不二商工からの仕入れに係る代金請求書の一部(明細の記載がなく、請求月の二〇日締めの合計金額だけが記載されている部分)などを提出しただけで、収支計算書の作成のもととなった証拠資料(収入金額を証する請求書控え等)や仕入材料費の明細を示す資料、現金出納帳を一切提出しなかった。

以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中、右認定に反する部分はたやすく採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  右認定した事実によれば、原告は、吉田係官から係争各年分の所得金額を算定する基礎とした帳簿書類等の資料の提示を求められたのに、これに応じることなく、同係官の調査に協力しようとしなかったものであるから、同係官において係争各年分の原告の所得金額を実額で把握することは不可能な状況にあり、その状況は容易に解消されるとも認められなかったというべきである。なお、原告は関係資料を提示したと主張するが、前記認定のとおり、原告は、二回目の調査の際、テーブル上に書類のようなものを用意しながら、吉田係官に対し、調査の具体的な理由の開示や立会人の立会を要求し、立会人を退席させて調査に応じるよう求める同係官の要請に応じようとしなかったものであって、同係官がもはや原告の協力を期待することができないと判断したことには合理的な根拠があったといえる。

したがって、被告は、本件各更正を行うにあたり、原告の係争各年分の所得金額を推計する必要があったということができる。

3  なお、原告は、吉田係官による本件調査は、調査期日の事前連絡や調査理由の開示がされず、第三者の立会も許さないで行われたもので、納税者の権利を侵害する違法な調査である旨主張する。

しかし、所得税法は、調査権限を有する税務職員の行う質問検査の時期、方法等の実施の細目について具体的に規定しておらず、調査日時を事前に連絡するかどうか、調査に立ち会わせるかどうかといった具体的な調査の方法の選択については当該税務職員の合理的な裁量に委ねたものと解されるところであり、当該税務職員のとった調査の方法が社会通念に照らして著しく不当なものでない限り、その調査が違法であるということはできない。

本件においては、吉田係官は最初の調査日(平成二年九月一七日)に事前の連絡をせずに原告の事業所に臨場しているが、そのこと自体は同係官の裁量によるものであり、特に調査を違法とするような事由とはいえないし、また、吉田係官が原告に対し、調査の理由は原告の申告所得金額の確認のためである旨を説明していることは、前記認定のとおりであって、その説明が不適切であるとか不十分であるともいえない。また、所得税の調査を受ける納税義務者が第三者の立会を要求する権利があると解すべき法令上の根拠はないのであり、吉田係官が、本件調査に際し、立会人の退席を求めたことが違法・不当な措置であったということもできない。

したがって、吉田係官の調査に社会通念上不当とみられる点はなく、その調査の違法をいう原告の主張は失当である。

二  推計の合理性について

1  原告の係争各年分の売上原価(仕入材料の価額)

(一) 原告が「協栄工業」の名称を用いて不二商工から水道配管工事に必要な工具類や材料を仕入れていたこと、原告の係争各年分における右材料の仕入価額は、別表1の〈8〉欄記載のとおり、昭和六二年分が五七三万一九二七円、昭和六三年分が五一七万二八六五円であることは、当事者間に争いがない。

(二) 原告は、右仕入材料の価額がそのまま売上原価となるわけではなく、右仕入材料の価額に期首たな卸資産(前年の期末たな卸資産)の価額を加え、期末たな卸資産の価額を控除した額が売上原価となるのであり、係争各年分における売上原価は、昭和六二年分が五七一万四八二九円、昭和六三年分が三九六万三六八三円である(別表4の〈2〉欄記載の金額)と主張する。

確かに、工事請負業において売上原価を構成する費用は、収入すべき工事代金を得るために要した仕入材料の価額であるから、当該年分中の仕入価額のうち、代金収入に至らない仕掛工事に要した材料や在庫のままの材料があるときは、それらは期末たな卸資産の価額として売上原価に算入すべきではないことは、原告主張のとおりである。しかし、原告は、昭和六二年期首たな卸資産の価額が常時在庫額五万円、昭和六二年期末たな卸資産の価額が六万七〇九八円(常時在庫額五万円を含む。)、昭和六三年期末たな卸資産の価額が一二七万六二八〇円(常時在庫額五万円を含む。)であったと主張するものの、常時在庫額が五万円であることを裏付ける客観的な資料はないし、それ以外の期末たな卸資産の価額についても、単に年末の一定期間に仕入れた材料の価額というだけで(しかも、その期間は係争各年分によって異なっている。)、期末における仕掛工事の内容やその施工に要した材料の数量・単価も明らかでなく、原告主張の係争各年分の期首、期末たな卸資産の価額を裏付ける資料は一切提出されていないのであって、結局、本件においては、期末たな卸資産の有無、金額が明らかでなく、原告の事業所得の金額を推計するにあたっては、係争各年分中の仕入材料の価額をもってそのまま売上原価とすることに十分合理性があるというべきである(なお、原告は、本件各処分に係る裁決において、「協栄工業」名での材料仕入れが原告だけの仕入れかどうかに疑義があるとされているから、右仕入材料の価額を推計の基礎とすることは正確でない旨主張するが、前記のとおり、原告の係争各年分における仕入材料の価額については当事者間に争いがないのであるから、原告の右主張は、本件推計を不当とする根拠とはなりえない。)。

2  比準売上原価率及び比準経費率

その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一〇号証、証人山崎克文の証言により真正に成立したものと認められる乙第一一、一二号証及び証人山崎克文の証言によれば、以下の事実が認められ、その認定を左右するに足りる証拠はない。

(一) 東京国税局長は、被告に対し、平成五年九月三日付けで「税務訴訟に関する資料の作成及び報告について」と題する通達を発し、係争各年分につき、次の(1)ないし(5)の条件すべてに該当する者の全員を比準同業者として抽出し、係争各年分の〈1〉 売上金額、〈2〉 売上原価、〈3〉 経費、〈4〉 売上原価率(〈2〉を〈1〉で除したもの)、〈5〉 経費率(〈3〉を〈1〉で除したもの)を報告するよう求めた。

(1) 水道衛生工事(水道配管工事)業を営む者

(2) 青色申告の承認を受けている者で、西新井税務署管内に住所及び事業所を有する者

(3) 売上原価が次の範囲内にある者

ア 昭和六二年分につき二八六万五九六四円以上一一四六万三八五四円以下

イ 昭和六三念分につき二五八万六四三三円以上一〇三四万五七三〇円以下

(4) 年を通じて水道衛生工事(水道配管工事)業を継続している者

(5) 次のいずれにも該当しない者

ア 災害等により経営状態が異常であると認められる者

イ 課税処分を受けて不服申立期間又は出訴期間が経過していない者あるいは課税処分に対する不服申立手続又は訴訟手続が係属中の者

(二) 西新井税務署職員の山崎克文は、右通達に基づき、同署が保管する業種別名簿、確定申告書、青色申告決算書の資料を参考にして、右の条件を充たす者全員を抽出したところ、抽出された比準同業者の数は、昭和六二年分について一二名、昭和六三年分について一一名であった。

(三) 右抽出された比準同業者各人の一年分の売上金額、売上原価、その他の経費、売上原価率、経費率は、昭和六二年分が別表2に、昭和六三年分が別表3にそれぞれ記載のとおりであり、比準売上原価率、比準経費率は、次のとおりであった。

比準売上原価率 比準経費率

昭和六二年分 三一・二四パーセント 四四・四八パーセント

昭和六三年分 二九・二四パーセント 四六・八五パーセント

3  そうすると、係争各年分における原告の前記売上原価を右比準売上原価率で除して推計される原告の売上金額及びその売上金額に右比準経費率を乗じて推計される原告のその他の経費は、次のとおりとなることが計算上明らかである(円未満切捨て)。

売上金額 その他の経費

昭和六二年分 一八三四万八〇三七円 八一六万一二〇六円

昭和六三年分 一七六九万一〇五六円 八二八万八二五九円

4  ところで、本件推計に用いられた比準同業者は、恣意的に選択されたものではないし、業種、事業所所在地、事業規模の点において原告に類似する事業形態の同業者であるということができるから、本件において、原告が仕入れた材料の仕入価額(売上原価)を基礎とし、前記同業者の比準売上原価率及び比準経費率を用いて、原告の係争各年分の売上金額、その他の経費を推計した本件推計は、水道配管工事業の事業所得の金額の推計の方法として十分な合理性があるということができる。

この点に関し、原告は、水道配管工事業においては雇人の有無が所得率の高低に大きく影響するにもかかわらず、雇人の有無が比準同業者の抽出基準とされていないから、本件推計に用いられた比準同業者は、原告との類似性に欠ける旨主張するが、原告と事業規模に大差がないとみられる個人の水道配管工事業において、雇人の有無が所得率の高低に著しい相違をもたらすこと、すなわち、雇人があって売上金額が多いほど所得率が顕著に高くなるとか低くなるといった相関関係があることを窺わせる事情は何ら認められず、原告の右主張は失当というべきである。

5  なお、原告は、被告が本件各更正時と異なる推計方法を主張することは許されないと主張するが、いわゆる白色申告に対する更正の適否が争われる訴訟において、更正の正当性を維持する理由として、課税庁が更正時において認識した事実と異なる事実を主張することが許されないと解すべき法的根拠はなく、原告の右主張は失当である。

三  所得の実額に関する原告の主張について

1  本件推計は、係争各年分における売上原価を基礎とし比準売上原価率及び比準経費率を用いて原告の売上金額及びその他の経費を推計するものであるが、右推計の結果を覆して、事業所得の実額を把握することができるといえるためには、少なくともまずその売上金額を実額によって把握することが必要となることはいうまでもない。そこで、原告提出の資料によって原告の係争各年分の売上金額の実額を正確に把握できるかどうかについて検討する。

2(一)  原告は、売上金額を裏付ける資料として売上集計表(昭和六二年分につき甲第二号証、昭和六三年分につき甲第一八号証の各所得計算書中のもの)を提出し、その本人尋問において、右売上集計表は、原告において、毎月の売上金額をその翌月初めころにその都度集計して記入したものであり、請求書を発行していない現金売上についても、カレンダー等へのメモ書きに基づいて集計したものであるが、現在はそのようなメモは手元にないと供述している。

そうだとすると、右売上集計表に記載された金額の正確性・信頼性を確認するためには、原告提出に係る請求書控え(甲第三号証の一ないし四、第一九号証の一、二)だけでは不十分であり、しかも、本件においては、毎日の収支を逐一記録した現金出納帳のような帳簿も提出されていないのであるから、結局、右売上集計表が取引の全てを正確に記載したものであるかどうかが明らかでないといわざるをえず、これに基づいて原告主張の売上金額を認定することは困難である。

(二)  次に、原告が売上先に発行したという請求書控え(甲第三号証の一ないし四、第一九号証の一、二)は、その体裁からみて、五〇枚綴りになった裏面複写式の市販の請求書用紙であるのに、一枚一枚切り離された状態で書証として提出されているうえ、年間の売上の状況を継続的に記録したとみられる売上帳などの帳簿類が一切提出されていないから、右請求書控えが売上の都度作成されたものであり、その全部が漏れなく書証として提出されたものであるかどうかを確認することができない。

また、右請求書控えと前記売上集計表とを対照すると、〈1〉 昭和六二年分の売上集計表(甲第二号証の二枚目)の一二月欄には斉藤工務店に対する売上金額として八九万六〇〇〇円が記載されているのに対し、甲第三号証の四の同店に対する昭和六二年一二月付けの請求書控えに記載された請求金額の合計は八八万四〇〇〇円であり、〈2〉 昭和六三年分の売上集計表(甲第一八号証の二枚目)の一月欄には斉藤工務店に対する売上金額として一七万八〇〇〇円、有限会社池内工務店に対する売上金額として二万九五〇〇円が記載されているのに対し、甲第一九号証の二の斉藤工務店に対する同年一月付けの請求書控えに記載された請求金額の合計は一五万六〇〇〇であり、また、有限会社池内工務店に対する同年一日付けの請求書控えは見当たらず、〈3〉 昭和六十三年分の売上集計表(甲第一八号証の二枚目)の二月欄には久保設備工業に対する売上金額として一二万八九五〇円が記載されているが、甲第一九号証の二には久保設備工業に対する同年二月付けの請求書がなく、〈4〉 昭和六三年分の売上集計表(甲第一八号証の二枚目)の一二月欄には有限会社池内工務店に対する売上金額として一六一万〇五〇〇円が記載されているのに対し、甲第一九号証の二の同社に対する同年一二月付けの請求書控えに記載された請求金額の合計は一三一万〇五〇〇円であるなど、その間に矛盾があり、提出された請求書控えが真実その都度作成され、売上を網羅したものとみることに疑問があるといわざるをえない。

(三)  また、前記売上集計表に記載された売上金額とその期中の仕入材料の価額を対比すると、売上金額に占める仕入材料の価額の割合は、昭和六二年分が約七六パーセント、昭和六三年分が約八一パーセントにもなり(原告主張の給与所得に係る収入を売上金額に含めて計算しても、昭和六二年分が約六四パーセント、昭和六三年分が約七四パーセントである。)、別表2及び3の比準同業者中、売上原価率が最も高いのは、昭和六二年分で四二・四〇パーセント、昭和六三年分で四六・一三パーセントであること、水道配管工事業が、単なる設備や材料の卸売・小売業とは異なり、工事施工の労務に対してもかなり高い割合の代金が支払われる業務であることなどに照らすと、前記売上集計表記載の売上は、原告の売上全部について記載したものではないとの疑いを否定できない。

3  右のとおり、原告主張の売上金額を裏付けるものとして提出された売上集計表や請求書控えは、原告の係争各年分の売上全部を網羅したものではない疑いがあり「なお、原告が給与所得に係る収入として主張する「常用工賃」等の金額を事業に係る右売上金額に加算しても、これによって原告の売上全部が網羅されることになるものでないことはいうまでもない。)、これらの資料によっては、原告の売上金額の全貌を把握することは到底できないといわなければならない。

したがって、本件においては、その余の点について検討するまでもなく、係争各年分の原告の事業所得の金額を実額によって把握することはできないというべきである。

四  係争各年分の原告の所得金額

1  そうすると、原告の事業所得の金額は、前記二の3記載の売上金額から、同二の1記載の売上原価(仕入材料の価額)及び同二の3記載のその他の経費を控除した金額であり、昭和六二年分が四四五万四九〇四円、昭和六三年分が四二二万九九三二円となるから、原告の昭和六二年分の総所得金額を三〇七万〇三九一円とし、昭和六三年分の総所得金額を三二二万九九六九円とした本件各更正には、原告の所得金額を過大に認定した違法はないというべきである。

2  なお、原告は、昭和六二年分において貸倒金が一一七万五五〇〇円存在する旨主張しているので、この点についても検討するに、甲第一七号証の一、二及び原告本人尋問の結果によっても、原告が有限会社長山工務店に対し、「大久保ビル新築工事に伴う給排水工事」の残金一七六万八〇〇〇円及び「桜井邸新築工事に伴う給排水工事」の代金八五万三〇〇〇円の合計二五三万一〇〇〇円を請求する昭和六一年一二月八日付け請求書を郵送したところ、これが受取人不在により配達されなかったことが認められるだけで、そのうちの一一七万五五〇〇円がなぜ昭和六二年分の所得金額の算出の際に控除される貸倒金となるのかが判然とせず、他には右貸倒金に関する原告主張の事実を認めるに足りる証拠は見当たらないから、この点に関する原告の主張は失当である。

第三本件各決定の適法性について

本件各更正が適法であることは前示のとおりであるから、本件各更正を前提として、国税通則法六五条の規定により適法された金額を過少申告加算税として賦課した本件各決定は適法である。

第四結論

以上の次第で、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条及び民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤久夫 裁判官 橋詰均 裁判官 武田美和子)

〔別表1〕

〈省略〉

〔別表2〕 比準同業者(昭和62年分)

〈省略〉

〔別表3〕 比準同業者(昭和63年分)

〈省略〉

〔別表4〕 所得の実額に関する原告主張の金額

〈省略〉

〔別表5〕 売上集計表 昭和62年分

〈省略〉

〔別表6〕 売上集計表 昭和63年分

〈省略〉

〔別表5の2〕 雑工事に係る売上の内訳(昭和62年分)

〈省略〉

〔別表6の2〕 雑工事に係る売上の内訳(昭和63年分)

〈省略〉

〔別表7〕 常時在庫 内訳

〈省略〉

〔別表8〕 材料・仕入集計表 昭和62年分

〈省略〉

〔別表9〕 材料・仕入集計表 昭和63年分

〈省略〉

〔別表10〕 経費集計表(昭和62年分)

〈省略〉

〔別表11〕 経費集計表(昭和63年分)

〈省略〉

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